大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成5年(わ)155号 判決

本籍

兵庫県尼崎市塚口町六丁目三四番地の一九

住居

右同所

会社役員

三島肇

昭和一六年一一月九日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官原島肇・弁護人相馬達雄各出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年に処する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  兵庫県西宮市門戸東町四番五三号に本店を置き、土木建築の設計、施工及び不動産売買業等を営む大同建設株式会社の社長室長兼法人営業部長として主に土木建築部門を担当しているのであるが、同社代表取締役森田勝之、同社取締役財務部長辻勝彦と共謀した上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

一  同会社の平成元年七月一日から同二年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が七億三三六一万六一五一円、課税土地譲渡利益金額が三二三万一〇〇〇円で、これに対する法人税額が二億七五八五万五三〇〇円であるにもかかわらず、架空の分譲工事原価を計上するなどの行為により、その所得金額のうち、三億八五二七万七七四〇円を秘匿した上、平成二年八月三一日、同市江上町三番三五号所在の西宮税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が三億四八三三万八四一一円、課税土地譲渡利益金額が三二三万一〇〇〇円で、これに対する法人税額が一億二一七四万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額との差額一億五四一〇万八九〇〇円を免れた

二  同会社の平成二年七月一日から同三年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が九億七一八〇万一三四円、課税土地譲渡利益金額が四一二万二〇〇〇円で、これに対する法人税額が三億四三九五万七三〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為のほか架空の土地原価及び売渡し費用を計上するなどの行為により、その所得金額のうち、七億五六三三万三三三六円を秘匿した上、平成三年九月二七日、前記西宮税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が二億一五四六万六七九八円、課税土地譲渡利益金額が四一二万二〇〇〇円で、これに対する法人税額が六〇三三万二一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額との差額二億八三六二万五二〇〇円を免れた

第二  大阪市北区茶屋町六番一八号に登記簿上の本店を置き、土木建築の設計、施工等を営む株式会社日産の取締役として、主に土木建築部門を統括するものであるが、同社の実質的な経営者である森田勝之及び同社の財務経理部門を統括する辻勝彦と共謀の上、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社の平成二年七月一日から同三年六月三〇日までの事業年度において、その所得金額が四億二九一五万七一二九円で、これに対する法人税額が一億六〇一七万三八〇〇円であるにもかかわらず、架空の労務費及び外注費を計上するなどの行為により、その所得金額のうち、四億二〇二八万一六六〇円を秘匿した上、平成三年八月二九日、大阪市北区中津一丁目五番一六号所在の大淀税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が八八七万五四六九円で、これに対する法人税額が二五六万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額との差額一億五七六〇万五七〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

事実全部について

1  被告人の

1 公判供述

2  検察官調書一九通

2  辻勝彦の検察官調書(検察官請求番号91)

3  査察官調査書謄本二通(前記番号16、18)

第一の事実について

4  査察官調査書謄本四通(前記番号14、15、17、19)

5  「所轄税務署の所在地について」謄本(前記番号6)

第一の一の事実について

6  脱税額計算書謄本(前記番号2)

7  証明書謄本(前記番号4)

第一の二の事実について

8  脱税額計算書謄本(前記番号3)

9  証明書謄本(前記番号5)

10  査察官調査書謄本四通(前記番号20から23)

11  辻勝彦の検察官調書二通(前記番号90、92)

第二の事実について

12  「所轄税務署の所在地について」謄本(前記番号10)

13  脱税額計算書謄本(前記番号8)

14  証明書謄本(前記番号9)

15  査察官調査書謄本五通(前記番号24から28)

(法令の適用)

罰条 いずれも法人税法一五九条一項、刑法六〇条

刑種の選択 いずれも懲役刑

併合罪処理 刑法四五条前段、一〇条、四七条本文

(犯情の最も重い第一の二の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、不動産取引などで多額の利益を得た会社において、架空の外注費、労務費などを計上し、その利益を過少に申告して総額五億九〇〇〇円を越える巨額の脱税をした事案で、その金額の大きさにかんがみると、被告人の刑事責任を軽視はできない。只、被告人は、これらの会社経営をワンマン的に支配していた共犯者森田に命じられるままに、一従業員的立場でこれに加担したに過ぎず、被告人の立場で、上司の命に背くことは困難であったと考えられること、また、被告人は、本件脱税の目的、方法や総額など、その全容を知っていたわけではなく、その秘匿した利益から分け前などは貰っておらず、個人として不正の利益を得ていないこと、被告人に前科はなく、その社会生活に特に問題はなかったこと、捜査に協力したこと、反省していることなど、その有利に斟酌すべき事情を考慮して、その刑の執行を猶予することとした。

(裁判官 伊東武是)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例